N.Y.  

rm_pochi1955 63M
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7/30/2006 9:03 am

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8/3/2006 7:13 am

N.Y.


小さい頃、町内にいわゆるご隠居がいた。
血色がよく、いつもニコニコした子供好きで、話が面白いのでよく遊びに行ったものだ。

ヘビースモーカーで、紫煙の立ちこもる中で実に美味しそうにタバコをふかす姿は、僕が彼にかわいがられたからか、好ましいものとして瞼の裏に残っている。
時々大事そうに葉巻を取り出し、ふかすことがあった。煙の匂いが濃くて、キツイのだけれど豊かで、僕は、紙巻の匂いよりずっと好きだった。葉巻は、はじめにナイフで少し口のところを切る必要があるそう、でそのための専用のナイフを持っていて、それもまた僕たちの憧れの的だった。

訪問するのは近所の子供だけではないらしく、時々黒塗りの見慣れない大型の車が庭先に止まることがあった。そんなときは近づかなかったが、次の日に行く、といろんなみやげ物や、話が楽しめることがあった。ギャング映画で見るような特に太い葉巻もそんなときに初めて触らせてもらった。親指よりも太く、一本一本アルミのケースに入った、いかにも高価そうなものだった。小学生だったから吸わせてはもらえなかったが、鼻を近づけると、さまざまな匂いがあって、感動した。ただ、そのおじいちゃんは、日頃吸いなれている物のほうがお気に入りのようなのが不思議で、大人になったら、きっと味わってみたいと思ったものだ。

後年、米国に行った時にあのおじいちゃんが言っていた「NYの煙草屋」なるものを探してみた。それは煙草屋と言うにはあまりに立派な、Alfred Dunhill NY店だったのだ。そこでまさしく彼が大事そうに吸っていた葉巻を見つけて、胸キュンになってしまった。こんな決定的なことがありながら、時代の変化もあって、僕は、この年になるまで葉巻を試したことが無い。

あのおじいちゃんが鬼籍に入ってもう40年。「ポチ君にはまだ早いなあ」と言っていた女の話も聞けず、キセルでのタバコの吸い方も教えてもらえずじまいになってしまった。

葉巻も吸わないで、あんなに魅力的な年寄りになれるものだろうか。

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